腰まである薄茶色のストレートヘアに花の髪飾りを付け、淡いピンク色の春らしいドレスを身に纏った可愛らしい少女だ。そして、その細く白い手にはハンカチーフのようなものを握っていた。
 レオナルドはそちらをチラリと見ると、すぐに目を逸らした。

「いらん。訓練の邪魔だから帰れ。団員の気が散る」

 冷たくあしらわれてた令嬢は傷ついたように瞳を潤ませた。

 ひぃっ、と周囲の部下達が青ざめる。
 だが、肝心のレオナルドは既にご令嬢のほうを見向きもしないので、それにすら気付いていないだろう。

「ちょっ。閣下、よかったのですか? 今のルエイン伯爵令嬢ですよ。社交界で『桃色の睡蓮』って有名な!」

 足早に立ち去るレオナルドの後ろに付いてきた側近のグレイルが焦ったようにそう補足する。ルエイン伯爵はハイランダ帝国でそれなりの地位にある、有力貴族だ。どうやらそこの娘だったらしい。