後から来たのは自分のほう?
確かにスティーブンとの会話中にテラスと会場を隔てる扉が開いた気配はなかったので、この男は最初からここにいたことになる。
──全然気が付かなかったわ。この人、全く隙がないと言うか、気配を感じない……。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。
アイリスはその男を真っ直ぐに見上げた。
「言いふらすの?」
「何をだ?」
「今見たことよ。私がとんでもない乱暴者だって」
背後では未だにスティーブンと女が罵詈雑言を捲し立てている。男はそれを完全に無視し、無言でこちらを見つめたまま首を傾げる。
「言わないな。言う必要もないし、そもそもお前が誰か知らん」
そしてフッと笑みを漏らす。
「なかなかよい拳だったな」