そう悟ったアイリスがぎゅっと目を瞑ってその痛みを受け止めようとしたとき、異変が起きた。

「ぎゃあぁぁ」

 自分ではない悲鳴がすぐ近くから聞こえてきた。

 恐る恐る目を開けると、アイリスに剣を向けたが男が地面に倒れているのが見えた。そしてその男とアイリスの間に、別の男が立ち塞がっている。

「俺の管轄地で不義を働こうとするとは、いい度胸だな?」

 自分が言われたわけでもないのに、ぞっとするような恐怖を感じた。
 全身に鳥肌が立つような威圧感だ。

 アイリスは突然目の前に現れた男の後ろ姿を見つめた。
 短めの髪は焦げ茶色で、少し伸びたえりあしが立襟にかかっている。服の上からでも体格のよさが伺える広い背中を包む黒い上着の肩には金の装飾が施されており、身長はアイリスよりも二回り近く高い。

 そして、手には立派な剣が握られ、その刃先は血に濡れていた