「きゃあ! スティーブン様、大丈夫ですか?」

 平手どころか拳で殴られ数メートル後ろにはじけ飛んだスティーブンを助けおこそうと、少女が駆け寄る。その二人の前に、アイリスは仁王立ちした。

「二度と私の目の前に現れないで。二人ともよ!」

 くるりと踵を返すと、「なんて女だ」だとか「とんでもない乱暴者ですわ」という罵声が聞こえてきた。アイリスはそれを無視して会場へと戻ろうと歩き出す。

 そのとき、入り口近くに一人の男が立っているのに気が付いた。
 女としては長身のアイリスでも首を反らせて見上げる程に背が高く、茶色の瞳は猛禽類を思わせる鋭さがある。短い髪を後ろにさらりと掻き上げ、腕を組み無言でこちらを見つめていた。

 アイリスはその男をキッと睨み付けた。

「のぞき見なんて趣味が悪いのね」
「後から来たのはお前のほうだろう?」

 低く、落ち着いた口調だ。