その日、カールはレオナルドの執務室に定例の打合せをしに行った。

 国内の貴族の動きで気になることを些細な事でも報告している間、レオナルドはいつものように眉間に皺を寄せた厳しい表情をしている。
 そして、説明が終わった後もその表情はほとんど変わらない。

「お前さー、ようやく遅咲きの春が来たんだから、もっとうきうきした表情できないの?」
「何がだ?」
「ずっと『女の相手は面倒くさい』って言い続けていたお前に恋人ができたんだぞ! 二人で過ごした時間を思い返して、もっと幸せそうな表情をするべきだと思うんだけど」
「二人で過ごした時間? そういえば、毎朝アイリスに稽古をつけてやっているのだが、回し蹴りの威力が最近増している。あいつは拳だけでなく、蹴りもいい。並レベルの騎士であれば、一撃で気絶させられるはずだ」

 レオナルドは今朝の自主訓練のときのアイリスの見事な回し蹴りを思い返したのか、厳しい表情を和らげる。

「いや、そういうことじゃなくて……」