人相の悪い男のひとりがアイリスを見下ろし、ふんと鼻で笑う。

「お嬢ちゃん、どきな。そこにいるべっぴんさんを渡してくれたら悪いようにはしねえよ」

 男は顎でリリアナ妃を指す。男性騎士は殺気だったように剣を腰から抜いた。

 ──ここはひとまず私が相手して、リリアナ様達は馬車で逃がしたほうがいいわね。

 アイリスが頭の中でぐるぐると作戦を考えていたそのときだ。すぐ近くから、威勢のよい声が聞こえてきた。

「おい、お前達! 動くな!」

 ──この声は、ジェフリー?

 聞き覚えのある声に、アイリスは驚いてそちらを見る。そこにはペアの騎士と二人でいる制服姿のジェフリーがいた。
 今日は第五師団がこの辺りを重点的に警戒しているはずだ。現在第五師団に所属しているジェフリーが来たことに、アイリスは応援が来たのだと少なからずホッとした。