「どうぞ」

 御者に扮する近衛騎士が箱馬車のドアを開けてリリアナ妃に手を差し出す様子を眺めていたアイリスは、ふと違和感を覚えた。

 ──これは視線? 誰かがこっちを見ている?

 アイリスは周囲を見渡す。誰かがじっとこちらを見るような、嫌な感覚だ。
 そのとき、数人の男が飛び出してきてアイリスは咄嗟に身構えた。

「リリアナ様、危ない!」

 アイリスの声に気付いた御者姿の男性騎士がリリアナ妃を守るように立つ。アイリスはそちらは彼に任せ、自分は袖口に隠していた短剣を素早く引き抜いて構えた。

 ──一、二、三、四。四人ね。

 突然現れた人相の悪い男達は全部で四人いた。
 同行している男性騎士はリリアナ妃とナエラを守るように立ちはだかっているので、実質的にこの四人はアイリスが相手しなければならない。