平和な日々が続いていたある日、アイリスはリリアナ妃が城下の聖堂に併設された福祉施設にお忍びで慰問訪問する護衛をすることになった。

 お忍びなので、本日リリアナ妃を護衛をする近衛騎士は最小限に限られていた。侍女に扮したアイリスと御者に扮した男性騎士の二人だけだ。
 代わりに、皇都騎士団の第五師団がこの周辺を重点的に警戒してくれているはずだ。

 孤児がいれば優しく微笑み菓子を配り、病人がいれば手を握り魔法で癒やす。そんなリリアナ妃の様子を、今回同行した筆頭侍女であるナエラとアイリスは見守る。

「リリアナ様、そろそろ戻りましょう。もう二時近いので、陛下の元へ行く時間に間に合わなくなります」
「ええ、そうね。わかったわ」

 一時間ほど施設に滞在した頃、ナエラがリリアナ妃に声をかける。

 リリアナ妃とナエラが施設から出て馬車へと向かう。
 今日は豪華な馬車ではなく、普通の庶民的な一頭立ての箱馬車だった。