「さっき、シレック叔父さんが来ただろう?」
「ええ。何か言われた?」

 アイリスは恐る恐るディーンに聞き返す。

 先ほどシレックに縁談を持ちかけられ、断るために咄嗟に『家庭教師の職を見つけた』と言ってしまった。けれど、そんな話はない。そのことについて、ディーンが聞いたのかと思ったのだ。

「この機会に子爵位を叔父さんに譲渡してはどうかと」
「なんですって!」

 アイリスは驚きのあまり大声を上げ、慌てて口を塞ぐ。ディーンはそんなアイリスのことを見つめ、困ったように眉尻を下げた。

「僕はこの通り、寝たきりだろう? もう働いていていい歳なのに、騎士はおろか子爵としての役目も果たせない。シレック叔父さんに爵位を譲らないかと言われたんだ。そうしても、屋敷の者達を悪いようにはしないと──」
「駄目よっ!」

 アイリスは思わず大きな声で否定する。
 あの叔父に爵位を渡す? とんでもないことだ。