「マリア様ももうすぐご結婚ですわね」
「ふふっ、ありがとう」

 マリアと呼ばれた黒髪の可愛らしい令嬢が、嬉しそうにはにかむ。
 その表情からは、幸せそうな様子が覗えた。

 ──結婚かぁ。

 アイリスの中になんとも言えない感情がわき上がる。
 自分にもあんなふうに普通の幸せがくるのだと信じて疑っていなかった頃があったのを思い出す。

「そういえば──」

 アイリスが踵を返そうとしたとき、ご令嬢のひとりが口を開く。

「お父様が、さすがにレオナルド様もそろそろお相手を決める頃じゃないかって──」