「せっかくのよくしてやっているのに、興をそがれた。私はディーンの顔をみて失礼する。ああそうだ、薬はしっかりと飲ませるように。なにせ、大事なコスタ子爵家の当主、兄さんの忘れ形見だからね」

 目の前に座るシレックは不機嫌そうに吐き捨てると、部屋を出て行った。

 バシン、と激しい調子で扉が閉められ、大きな音が響く。
 部屋に静謐が訪れ、壁際に置かれた置き時計の規則正しい音が大きく聞こえた。

「お父様、お母様。私は、どうすればいいの……?」

 アイリスは一人残された応接間で、途方に暮れて顔を覆った。