違法薬物組織への突入作戦決行の日、アイリスが向かったのは一軒の屋敷だった。高い塀で囲まれた大きな屋敷には正面に両開きの鉄門があり、中の様子は覗えない。

 屋敷が面する大通りを一台の馬車が通る。
 その馬車は真っ直ぐに屋敷に向かうと、門の前で停車した。

 トン、トトン、トン、トンと特徴的なノックが行われると、中から門が開かれる。そして、その馬車は屋敷の中へと消え、再び門が閉ざされた。

 ──そろそろかしら?

 アイリスは物陰に身を潜めてそっとその様子を見守る。
 そのとき、先ほど馬車が通った道に今度は手押し車を押した野菜売りの行商人が通りかかった。行商人は、皇都騎士団の団員が変装した姿だ。
 その行商人は屋敷から五十メートルほどの場所に手押し車を置くと、首からぶら下げていた客引きの笛を吹く。
 ピーッと甲高い音が周囲に響き渡った。