「ジェーント商会の会長?」
「ああ、そうだ。少し歳は離れているが、立派な商会の会長だぞ。こんなにいい話はない」

 何が〝少し〟だ。
 ジェーント商会の会長は、アイリスの記憶では齢六十近いはずだ。
 祖父と孫ほども離れているではないか。それに、ジェーント商会といえば周囲の小売店を恐喝まがいの方法で次々に廃業に追い込んでいると悪い噂の絶えない商会でもあり、その会長については言わずもがなだ。

「もちろん受けるだろう?」

 アイリスは返事せずに、上質紙を元のように折りたたんで封筒にしまった。

「……急すぎて、お答えできかねます。ディーンにも相談しないと。あの子だって社交界デビューできていないだけでもう十七歳になったのだから、一人前ですわ」
「一人前? これは驚いた。あの体でどうやって子爵家当主としての役目を果たすんだ。ベッドの中だけは社交も仕事もできないぞ。ましてや騎士になど、なれるはずもない」

 シレックは少し小馬鹿にしたように、鼻で笑う。