リリアナはブルーナを抱きながら、子守歌をうたう。
 聞いたことがない歌だったので、もしかするとリリアナの故郷の歌なのかもしれないとアイリスは思った。

 ブルーナの前でリリアナが手をかざすと、ふわりと空中に鮮やかな色が舞っては消える。 
 それを見たブルーナは泣くのを止め、嬉しそうに笑った。

「魔法……。すごい」

 魔法の国とも呼ばれるサジャール国から来たリリアナは、あたかも普通のことのように日常的に魔法を使う。それらは全てアイリスから見ると目新しいもので、今日も思わず見惚れてしまった。

「ハイランダ帝国には魔法を使える人がほとんどいないから、珍しいわよね。わたくしの故郷は、皆が当然のように魔法を使ったわ。お湯を沸かすのも、風をおこすのも、病人の治療だって魔法でやるの。だから、わたくしからすると、魔法なしでも道具を使ったり工夫しながら同じことをやってのけるこの国の生活の仕方に驚きが大きかったわ」