そのとき、部屋の片隅から「ふぎゃあ」と泣き声がした。目を向けると、乳母が皇女であるブルーナを抱っこしてあやしていた。

 その声に反応するようにリリアナは立ち上がると、乳母からブルーナを受け取った。

「ブルーナ様は今日もお元気ですね」
「ええ、そうね。陛下がいらっしゃるともっと元気になるのよ」

 リリアナは口元に笑みを浮かべ、慈愛に満ちた瞳でブルーナを見つめる。

 ハイランダ帝国第一皇女であるブルーナは、数ヶ月ほど前に誕生したばかりだ。父である皇帝ベルンハルト譲りの黒い髪に青い瞳をしているが、顔の造作は母親であるリリアナによく似ている。赤ん坊ながらにとても整った容姿をしており、誰もがため息をつくような美姫になること間違いないだろう。