勧められて食べないのも非礼に当たるかと思い、アイリスはそれをひとつ摘まんで口に入れる。ふわふわとした食感とバターの利いた味わいが口に広がった。

「美味しい……」
「そうでしょう? これ、私の故郷にあったお菓子に味が似ているの。最近、周辺国との国交が活性化しているから似たようなお菓子が入ってきたみたい」

 リリアナは嬉しそうに笑い、自身もその焼き菓子を摘まんで口に入れる。

「仲がよろしいですね」

 まだリリアナ付きとなってから日は浅いが、アイリスが知る限り、リリアナ妃と皇帝陛下はとても仲がよい。立場は全く違うが、亡き父と母を思い出した。

「ふふっ、ありがとう」

 リリアナははにかんだような照れ笑いをして、アイリスを見つめる。

「アイリスさんは、婚約者はいらっしゃらないの?」
「おりません」
「もうすぐ十八歳よね? 子爵令嬢なのに、珍しいわね」

 リリアナが首を傾げたので、アイリスは所在なく視線を落とす。