緊張を解すには、いつもと同じ行動を取るほうがいい。
 近衛騎士団入りを命じられた翌日、アイリスは朝早くに訓練場へと向かった。
 いつものように一心に剣を振るっていたその人は、こちらに気が付いて剣を下ろした。

「よく寝られたか?」
「ほどほどには」

 色々なことを考えてしまい、ぐっすりとは眠れなかった。
 アイリスのばか正直な返事に、レオナルドは苦笑する。

「リリアナ妃は陛下の至宝だ。心して護れ」
「この剣に誓って」

 アイリスは剣の平らな部分を沿わせるように斜めに胸に当てると、しっかりと頷く。

 宮殿で働く者達の中で、皇帝夫妻の仲睦まじさは有名だった。
 皇后であるリリアナ妃はそれまで国交がなかったような遠い異国から嫁いできた。皇帝夫妻は婚約するまで一度も会ったことがない政略結婚だ。

 それにも拘わらず、二人は相思相愛のようだ。