──嫌だ……。

 逃れようとしたけれど、もはや手に力が入らない。自分を支える力強い腕に、酷く安心した。

「よく耐えたな」

 囁くような声が頭上から落ちてくる。
 それがアイリスの、その日の最後の記憶だった。