てっきり失態だと怒られると思っていたのに、すんなりと話を流されてアイリスは戸惑った。

「では、今日は左手だけで俺の剣を相手してみろ」
「え?」

 普段持つことがない左手で剣を握ると、やはり勝手が違う。
 レオナルドの攻撃──恐らくかなり力を抜いてくれている──を受けた瞬間、握力が抜けて剣がぐらりと揺れた。

「おい、ふざけるな。実戦においては、ときに体の一部を負傷することもある。例えば、今のディーンでいう右手だ。そのときも、相手は手加減などしてはくれないぞ」
「え?」

 アイリスは驚いてレオナルドを見つめる。レオナルドはまたこういう状態になったときに備えて、アイリスに稽古を付けてくれているのだ。

「なせ閣下はこのようによくして下さるのですか?」
「俺がよくしていると感じているなら、しごきが足りないな」
「わわっ」