レオナルドには宮殿を拠点とする者だけでも何百人もの部下がいる。アイリスのような新人の怪我までは把握していないのだろう。

「はい。町で窃盗犯を追跡しているときに、逆上していた相手に右腕を切りつけられました」
「剣を持っていなかったのか?」
「持ってはいたのですが──」

 アイリスは言い淀む。

 実はあの日、先輩騎士からも同じ質問をされた。
 なぜ剣で応戦しなかったのかと。アイリスが説明しようと口を開きかけたとき、レオナルドが先に言葉を発した。

「街中か?」
「はい」
「なるほど。怪我をしたのは右腕か?」
「え? はい」