「だからさ、そんな風に、使えそうもないって思ったものを粘り強くどうにかしようとしてれば、思いがけないところから運が巡ってくるかも」



 恥ずかしそうに顔を歪めて笑う。凪の言葉は誠のものとして、佐野の心に、清く、まあるく、そのままのものとして収まった。密かに脈動していたわだかまりがすっ飛んでしまって、世界が悪夢から幸福に移り変わったようだった。



「ありがとう」



 凪は静かに微笑んだ。相変わらず冷え込む一方で、二人とも手がかじかんでいる。佐野は手にしていた缶をベンチの横に置く。口の周りを両手で囲み、暖かい息をかけた。

 満足したのか佐野の横に座った凪は思いついたように、悪戯っ子の唇をつくる。



「そういえば、私、悪魔じゃないよ」


「知ってる」



 凪は出会った時からずっと、人間臭い少女である。