朧月に酔う

「好きな人、他にいるのに、その人も結婚するらしいし。」

「え?」

あまり聞きたくなかった為に流しながら聞いていたが、その発言がどうしても引っかかってしまった。

「お前、好きな人居るの?」

しまった、と彼女の顔には書いてあった。

すっと冷たい秋風が立ち、僕らの間を通り過ぎて行く。

「あ…うん。」

「結婚、すんの?その人も。」

苦虫を噛み潰したような顔をした彼女が、首を縦に振った。

遠くでヒグラシがか細い声で鳴いている。

「なんて言うか、まあ、頑張れよ。」

ぶっきらぼうに僕はそう言った。
そう言うしかなかった。

「冷えるから中入ろうぜ。あと俺そろそろ帰るわ。」

「そっか。」

重たい雰囲気は、消えなかった。

淡い月光を背に僕らは部屋に戻った。