神無月の夜は冷える。家から15分ほど歩けば、目的地の明かりが見えてくるにも関わらず、15分の間で体は冷えきってしまった。今日も残すところあと1時間に迫っていた。空には朧月が優しく光を洩らしている。

住宅街の一角にある古いマンションの錆びた階段は、足を置く度にカツカツと大きな音が響く。

201の扉の脇のインターフォンを押した。初めてここに立った時の緊張感はすっかり消えていて、そんな自分が少し哀しかった。

暫くして中から鍵がガチャっと開いた音と同時に、見慣れた綺麗な顔が覗く。

そして来訪者が俺と分かった途端に、綺麗なその顔が

歪んだ。

「…何?こんな時間に。」

サテンのピンクのパジャマ。寝巻き姿を初めて見る訳ではないが、初めて見るその服装。彼女の趣味ではないようなものだ。

「そのパジャマ、初めて見た。」

無意識にそう漏らすと、彼女は怪訝そうに眉をひそめ、

「新調したの。で?何?」

と言うその少し鋭い目線は、見飽きたもので少しも怖くなかった。