「ありがとうございます」

緊張してしまったが、こうして歌声を褒めてもらえて嬉しい。アンはドキドキと胸を高鳴らせながら中心から離れ、また壁際に戻ろうとした。刹那、「アンお嬢様!」と声をかけられる。

アンが振り向くと、黒い執事服を着た黒髪の整った顔立ちの男性が息を切らせながら立っていた。その頬は赤く染まっている。

「あの、私のことを覚えていらっしゃいますか?」

男性に突然訊かれ、アンは一瞬戸惑う。しかし、男性をジッと見つめているとどこか懐かしい顔だった。最近見かけた顔ではない。もっと古い記憶だ。アンは記憶を辿っていく。そして数十秒後、「あなた、もしかしてシャノン?」と訊ねる。昔、アンの屋敷に遊びに来た少年の顔がそっくりなのだ。

「そうです!シャノンです!小さい頃以来ですね……。アンお嬢様の歌声で思い出しました」

シャノンが嬉しそうに言い、アンも「シャノンの前でそういえばよく歌ったわよね」と微笑む。その時、「楽しそうだな、シャノン」とシャノンの隣に白いリボンを結んだ燕尾服の少し長めの金髪を束ねた整った顔の男性が姿を見せる。