−数日後−

放課後私は教室に残っていた。
守人が先生に進路のことで呼び出されたからだ。
真理亜は私達が残りの高校生活を有意義に出来るよう気を使って一人で帰っている。

(今度お礼しなきゃな、真理亜。)
そんな事を思いながら自分の席の整理をしていた。

−ガラガラ−
扉の開く音がしたので振り向くとそこには今野が立っていた。

今野『あれ?まだ帰ってなかったの?』

『あ・・・うん。守人待ってる。』
何か急に気まずい感じた。でも真利亜が普通に接しようと言った事を思い出した。

今野『そっか。』
そう言って今野も自分の席に来て何やら探し始めた。


『どうしたの?忘れ物?』

今野『うん。ちょっとね。あ!あった!』
見るとその手には何かのチケットを持っていた。

『チケット?』

今野『うん。今日妹とライヴ行くんだ。こっちで思いで作りたいっていうから。』
それを聞いて私はあの時今野が言っていたことを思い出し胸が苦しくなった。

『そういえば…アメリカ。』
そこまで言うと今野も私の心境を察したのかフッと笑ってから言った。

今野『あー。ごめんな。説明してなかったね。俺病気があるって言ったじゃん?』

『あ…うん。心臓がって。』

今野『そう。生まれつきね。少し弱いんだ。その状態が少し良くないって言われて。』
私は心臓が大きく脈打っているのがわかった。

『え?!』

今野『アハハ。大丈夫大丈夫!大した事ではないから。その治療が出来る医者がアメリカにいるんだって。だから家族で当分はそっちに行こうってなったんだ。』

『そうだったんだ…。』
私はそれ以上言葉が出てこなくなった。
私がうつむいていると、

『そんな顔をするな!』
そう言って今野が私のおでこにデコピンしてきた。

『いたっ!』
私は思わず顔を上げる。
見ると今野は満面の笑みだ。
その後続けて今野が口を開いた。

『あと、別に俺お前の事、諦めてないし。今は仕方なく折れるけどアメリカで元気になって帰ってきたらその時は覚悟しとけよ!めちゃカッコよくなって帰ってきてやるから!その間にせいぜい峰と堪能しとくんだな〜!』
そう言って今野はイーって顔をした。
絶対強がってる。そう思った。
今野は笑顔をつくっているけど本心はそうじゃないだろう。見ず知らずの土地で治療するなんて不安でいっぱいだろう。それに必ず良くなるという保証もない。
私が言葉に詰まっていると今野が更に続けた。

今野『だから、俺がアメリカに行くその日まで…卒業するまではお前らと普通に思い出作らせてくれ。気まずいとか思わないで今まで通り接してくれ。な?俺ら仲間だろ!』
私は今野の寛大さに唖然となった。
普通なら後ろ向きになったって良いくらいの事がこれだけあるのに、後ろを向くどころか前を向いてひたむきに走っている。
私は自分が恥ずかしくなった。今野の何を見ていたのだろう、そう思った。

『うん!わかった!思い出沢山作ろうね!』
私は涙を流しながら言った。

今野『おう!よろしくな!』
そう言って今野は踵を返し教室を出ていった。

(人とは儚くも強いものなのかもしれない。)