驚きすぎて言葉も出なければ行動も起こせないでいると。
もう一度『ほら、使って。』
とハンカチを押し付けられた。
全く今の今まで近づいて来た事に気が付かなかった。
いつからいたのだろうか…

だが、コミュ症の私は男性がこんな近くにいた経験が無い。
どう反応してよいかわからない。

『あ。結構です。お気遣いなく。』
片方の手を挙げて目を背ける。
こんな優しい人に何て事を言ってしまうのかと思うがこれがコミュ症なりの精一杯。

峰『何で。持ってないんでしょ?』

『本当に大丈夫ですから、お気になさらないでください。』

峰『遠慮しないでください。そのまま持って帰ってもらっても大丈夫ですから。』

(え。それどういう…)

どんだけこの人お人よし何だろう。と思いながらフリーズしていると
『守人〜。一人だけ独走じゃ〜ん!』
『足速すぎ!ビビったわー』
同じクラスの男子が数人グラウンドからこちらに向かってくるのが分かった。

(一緒にいるのはまずい。何を言われるか分かったもんじゃない)
そう思いその場から立ち去ろうとした瞬間
バシッ!
肩をつかまれくるっと向き合う形にされた。

『あ、ぇえ…?』
思わず変な声が出てしまった。
次の瞬間、峰君が私の手をつかみハンカチを握らせてきた。

峰『これ、使って、、ね?』

(え?!いや。ちょっと待って。)

私がワタワタしている間に彼はクルッと踵を返し
『喉乾いちゃってさー』と言いながら男集の方に駆け寄って行った。
何が起きたのか頭の整理が付かなくて呆然とそこに立ちすくむ。
すると今度はグラウンドの方から真理亜の声がしてきた。

『真珠子〜大丈夫?何か盛大にコケてたけど~。』
今野も一緒にいるらしく
『ホントだよ、さすがにビビッたし。』
二人とも今完走したのか少々息を切らしながら近づいてくる。
私の前まで来た二人は石像みたいに固まっている私をみて
真理愛『真珠子?大丈夫?ねぇ!』
今野『お~い。聞いてるか〜?お〜い!』
目の前で手を振ったり肩を揺らしたりして声をかけてくる。
私はというと頭の中でさっき起こった事がリピートして流れていた。

(これ、使って、、ね。)
あの時、峰君の顔を初めてちゃんと見た。凄く目も大きくて、鼻も高い。
文字通りの【イケメン】だった。

それを思ったのと同時に私の中に何か嫌な感覚があった。
長年開いたことのない扉を開けるような重い感じ。

(何だろ。このモヤモヤ。何か凄く苦しい。)