『ちょっといいですか。話があります。』
親父は俺の言葉を聞いた後ゆっくりと顔を隠していた新聞を下した。
そして黙って数回頷いた。

その後俺と親父は中庭に移動した。
中庭に着くと軽い身震いをするような冬の風が吹いていた。
端にあるプールの前で俺は立ち止まった。
後ろにはさぞかし息子に何を言われるのか怯えている親父が立っている。

『爺から聞きました。』

『僕は今まであなたに愛情というものを注いでもらった事が無い。』
後ろで深いため息が聞こえた。親父もそう思っているのだろう。

『ですが、昨日爺からあなたが僕の事で悩んでいた事を聞きました。』

『え。』
爺がそんな事をするとは思っていなかったのだろう。

『昔から僕はあなたの見せるためだけの”理想の息子”なんだと感じていました。』

『そ、それは・・・。』
親父がうろたえている。

『でも昨日爺から話を聞いたことで、仕方なくそうなってしまったのだと・・・少なくともあなたはそうは思っていなかったと分かりました。』

『それなら・・・よかった。』
安堵したようだ。

『改めて聞きます。』
そこまで言って俺は親父の方に向き直った。

『今の僕は”理想”ではなく”愛する息子””になれましたか?』
俺は気が付くとボロボロ涙を流していた。
きっと認めてもらいたかったのだろう。一番の家族に。
親父はそんな俺をみてかなり驚いている。
今までこんな泣き顔一つ見せたことが無かったからだろう。

『当たり前だ。私も今まで親らしい事出来なくてごめんな・・・。』
そう言って親父は強く抱きしめてくれた。
俺は子供みたいに泣いていた。今まで心の中で育っていたモヤモヤを吐き出すようだった。

『ルイボスティー・・・美味しかったです。』
少しの時間の後、俺が小声で言うと親父は照れ臭そうに笑いながら、

『又淹れてやる。』
そう言って頭を撫でてくれた。
やっと本当の息子になれた、そう思った。


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机の上の携帯。
コール音が鳴り響く・・・。

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