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俺は小学校二年生。
いつものように学校が終わった後帰り道を歩いていると友達の男の子が話しかけてきた。

『守人くんって友達と遊ばないの?』

『うん。これからヴァイオリンのお稽古だから。』

『そっかー。今日本当は来るはずだった子がこれなくなって、できたら一緒に遊ぼうって言おうと思ったんだけど・・・。』
俺はその時自分が鎖のようなものに繋がれているような気落ちになった。
本当はみんなと鬼ごっこしたりサッカーしたりしたい。
でも毎日のように習い事がある。
さぼってしまいたい気にもなるがそんな事をしたらお父さんになんて言われるか。
うちの会社はその時ブームに乗っていたから顔も知れ渡っていた。
周りの先生や友達、その親には決まって『守人くんのお父さんは凄い。』『将来有望ね。』と言った。
更に親に逆らわない俺をみて『理想の息子さんですね』と周りが言うと『えぇ。そうですね。』と鼻高く親父が言っていたのを覚えている。

『僕も・・遊びたい。』
俺は小さい声で言った。

『え?なんて?』
聞き取れなかったようだ。
その時歩いている少し先に黒いベンツが止まっていた。
それに俺が気づくと中からおしゃれな恰好をした親父が現れた。

『迎えにきたぞ。』
そう言って手を振った。
それに気が付いたその子も『あ、お迎えだ。また明日な!』そう言って走り去って行った。

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その時俺はさっきのが聞こえなくて良かったと思った。聞こえていたらどんな事になっていたか。
結局俺はそれからも逆らわずにここまで来た。親の”理想”を常に追っかけて・・・。