顔こそは無表情だったけれど、それさえも優しく見えた。
そんな燈真はいつの間にかぼくの隣に立っていた。
暗くてよく見えないけど、相変わらず綺麗な顔だ。
切れ長の目、綺麗に通った鼻筋、決して血色がいいとは言えないけれど、薄くて綺麗な唇をしている。
イケメン、というより美形って感じ。
明るいところで見ると肌は女の子みたいに白くて。
「……顔に穴あきそうなんだけど」
「え、あっ。ごめんつい…」
こちらを向いた燈真と目が合ってしまい、パッと目を逸らした。
完全に見すぎてしまった。今のはぼくが悪い。
なんて思っていると、ぱちぱちと瞬きをした際にぽろっとひと粒の涙が落っこちてしまった。
…さっきから自分の泣き所がわからないんだけど。
そんなことを思いながら、下を向く。
意味わかんね、なんて独り言をぽつりと呟いた。
「……ねぇ───────────」
それは、一瞬の出来事だった。
ぐっと腕を引かれたのに驚いて、下に向けていた顔が反射的に燈真の方を向いた。
時間にしてみれば、1秒も満たさない時間で。
今まであまり耳に入ってこなかった海の音が、鮮明に聴こえた気がした。
「……泣かれると困る、んだけど」
軽く触れた唇を離すと、そう遠くない距離で困ったように笑う、燈真と目が合った。