「えっ、な、なんでいんのさ」

「来ちゃった」



真後ろに、燈真の姿があった。


来ちゃった、なんて真顔で棒読みな感じで言われても困るんだけど…。


どうやら隣からこちらへと移動してきたみたいで。

てっきり部屋に戻ったのかと。

というか。



「ち…かい……ような…」



意外と燈真との距離が近くて、不覚にも心臓が音を鳴らした。


いやそもそも心臓動いてるのかわかんないけど。


止まらなかった涙も、そっちに意識を持っていかれてきゅっと止まった。



「あ、ごめん」



と、燈真はぼくと違って全然冷静だ。

その態度に、よく分からないけどほんの少しだけむっとなってしまった。


でもやっぱり、空に視線を戻すと泣きたくなってしまう。


締め付けられて、夏の匂いを纏った風も、遠くに聞こえる海の音も、虫の声も、空の星も、隣にいる君の存在も。


その全部が、ぼくの心を容赦なく締め付けた。



「泣いてるからほっとけなくて。来ちゃった」

「…なんで今そーゆーこと言うかなぁ〜」



燈真のどこか優しさを含んだ柔らかい声が、不安定だったぼくの心に浸透していく。