優の狭間見せる陰りの原因は、これだったのかもしれない。



「お前ん家のとこは幸せだったんだろうなー」

「え、なんで?」



普通に気になり、聞き返す。

キョトンとするぼくの顔を見ずに、優は言った。



「すっげー良い奴だもん。明るいし元気だし、生意気なとこもあるけど。お人好しな所は遺伝したんだろうな」



夏休みは記憶探さなきゃな!と優が意気込んでいる姿を、ぼくは呆然と眺めていた。

───────幸せだったんだろうなー。

そんな優の言葉を、頭の中で繰り返す。


幸せ、だったのだろうか。


果たして本当に、ぼくは幸せだったか?

そこでふと、なぜぼくに記憶がないのか疑問に思った。


記憶がなくなったのではなく、望んで記憶がなくなっていたとしたら?



「伊緒、いんのか?」

「えっ、あ、あぁ、いるよ」



完全にひとりの世界に行っていた所を、優の問いかけにより現実へと戻ってきた。



「優真に電話すっかな〜。そんで出なかったらワンチャンあそこ行くか」

「なんか出るかもよ〜?」



それ以上深く考えることはせず、優を脅かす。

ビビり始める優に笑いを零しながらも、どこか痛む胸を抑えた。