中に残っていた少しのコーヒーが、床に広がっていく。



「大変…!」



そしてそれを見た優のお母さんが処理をしようとすると、優のお父さんが怪我をするからと止めに入った。

そして勿論ながらそれを見ていた優が、カップが割れた原因を瞬時に悟ったような顔をした。



「おまっ…物だけは壊すなって言ったろ…?!」

「だから事前に謝っただろ…?!」

「どーすんだよ…!俺の命がかかってんだぞ…?!」



どうやら優のお父さんは物が壊れるのを不吉だと嫌うみたいで、家に着いてくる前に物だけは壊すなと優から耳が腐れるほど聞かされていた。

小声で話すぼく達は、一旦冷静になって考える。

そしてふと、ある考えにたどり着いた。



「逃げるなら今じゃね…?」



ここは頷き合いたい所だけれど、優にはぼくが見えないため出来ないのが残念だ。

ぼくが割ったコーヒーカップの処理を、まだやっている隙にそっとリビングを抜け出す。

────────瞬間、



「待て、どこに行くんだ?」



怒りを含んだ、酷く低い声が後ろから聞こえてきた。



「走れっ!」

「あ、こら!待ちなさい!」



バタバタと玄関で優が靴を履く間、追いかけてくる優のお父さんに足を引っ掛けて時間を稼ぐ。