「手、出して」
生意気野郎からそう言われ、素直に左手を差し出す。
週末、路地裏を抜けたいつもの秘密基地。
ぼくたち以外はお菓子やら飲み物やらを買いに、コンビニの方へと行ってしまった。
何となく気まづい雰囲気が漂っているようないないような。
近くで蝉がわしゃわしゃと鳴いているのが、意識しなくても耳を擽った。
「い…っ…!」
あぁ、傷跡の痛みで瞬間的に現実へと引き戻されてしまった。
どうやら少し触れるだけで、痛みを感じてしまうみたいだ。
幽霊なのに痛みを感じるだなんて思ってもいなかった。
けれど治るのは早い、変な話だ。
それはどうでもいいけれど、相当深く切ってしまったみたいだあのおばさん。
あれは怒ると手が付けられなくなるタイプだな。
一人うんうんと首を縦に振っていると、生意気野郎と目が合った。
一瞬驚いて睨み返そうかと思ったけれど、彼から視線を逸らした。
意外と鋭いその目付きが、寒気がする程怖かった。