彼女は多分、気を失っているだけだと思うから、大丈夫。

傷跡ひとつなく、おばさんから抜け出せたみたいだ。



「…星奈、一華。帰ろっか」



呆然と突っ立っている星奈と一華に声をかけ、左手首を抑えながら学校を抜け出した。



「伊緒…っ、血が…!」

「伊緒ちゃん!」



相変わらずぽたぽたと、ぼくの手首から垂れる赤い血。

地面に落ちた血の跡を、星奈たちは追って来たんだろう。

今は秘密基地。ぼく達以外は多分学校。

そりゃそうだ。まだ午前中だもんな。



「大丈夫だって」



とは言うけど、内心全然大丈夫ではなかった。


正直言うと気絶レベル。


あのおばさんやりすぎだろ。マジで死ぬ気だったのか。



「だって…っ!死んじゃうよ!こんなに血が出てるのに!」



強気な星奈が、泣きながら怒っている。



「きゅ、救急箱っ…!」



弱気な一華が、泣きながら救急箱を探している。



「大丈夫だってば。救急箱見つけても手当できないでしょ。それに、もう死んでるし?多分 」



最後の一言で、瞬間的に静まり返った部屋。



「もっ、もう怒らないから…っ、ちゃんとするからっ、そんなこと言わないでよ…っ!」

「ごめっ、ごめんなさい…っ!ごめん…、なさいっ」

「もー、泣かないでよ」



近くに座って号泣している星奈と一華の頭を、わしゃわしゃ撫でくり回した。

会ってまだ間もないのに、ぼくのために涙をながしてくれている星奈たちがとても愛おしく思えた。

夕方、学校終わりに集合することになっているけれど、男2人は血の跡を見て殺人事件かと舞い上がり、1人はそんな姿を見て呆れていた。


そして、ぼくが叱られたのは言うまでもない。


腕の傷は、唯一ぼくのことが見える生意気野郎に手当をしてもらった。