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ギィ──────────と不気味な音を立てる扉を閉めた。


今日はひとり。


不意に秘密基地に来たくなり、また今日も燃え上がる炎天下の中を歩いてきた。


ここは何も変わらない。


ソファもテーブルもそのままだし、本棚も置いたまま。

路地裏を抜けた人通りのないこの場所。

思えば始まりは、なんだったんだっけ。



『ぼくが見えるの?!』

『おいでよ、燈真。』


「…誰、なんだっけ…」



僕たちの夏を動かしたのは、誰、なんだっけ。


僕を呼ぶ声が、あの声は、誰の声なんだっけ。


忘れてはだめなことを、僕は忘れてしまっているような気がしてならない。


なんども泣いた夜を、孤独だったあの子を、抱きしめたいと思った。

だめなんだ。忘れたくはない、記憶に焼き付けたはずのあの子は、あの子の名前は──────────。

鞄に入れて持ってきていたスケッチブックを手に取った。


もう二度と忘れたくはなくて。


君と過ごしたあの夏も、先輩たちと過ごしたあの夏も。