「如月 伊緒さん。」
そんな声が聞こえ、ゆっくりと後ろを振り返った。
いつの間にかぼくはまた自分から抜け出して幽霊となり、ぐったりとして倒れている自分の姿を呆然と見ていた。
お迎えの時間、かな。
『彼ら達の記憶から、幽霊だった伊緒の存在は完全に消されてしまうよ。』
いいんだ。たとえその瞬間を忘れたとしても、ぼくが覚えていればその瞬間は消えないから。
ぼくだけが振り返って、忘れないように焼き付ければ。
「あなた、ですね。」
震えた声でぼくを呼ぶ天使さんに、ゆっくりと頷いた。
その隣には、何やら面倒くさそうにしている死神さんもいて。
ねぇ、燈真。ごめんね。燈真たちの記憶から、幽霊だったぼくは消されちゃうんだって。
でもね、燈真。大丈夫。ぼくが覚えてるから。
また何度だって君と出逢って、何度だって好きになる。
燈真、──────────…ぼくの心臓を、君にあげる。