横断歩道が点滅しているというのに、無理に渡ろうとするから見ていてヒヤヒヤしてしまう。
危ない大人だ。気持ちもわかるけど。
ポケットに手を突っ込み、息を吐き出した時だった。
「危ないっ!!」
そんな焦ったような声が耳に届いた。
また危ない大人でも現れたのだろうか。
伏せていた顔を上げると、赤を示しているというのに、走って渡ろうとする大人がいた。
でもすぐそこには、トラックが迫っていた。
「え…またトラック?」
ぼくが事故に遭ったのも、小型のトラックだった。
『その瞬間に、選択をするのは人間だ。』
その時、兄が言った言葉が脳裏を過ぎった。
時にはもう、走り出していて。
昨日目覚めたばかりの人間が走れるわけがないのに、走ってる。
その瞬間を恐れて息を呑む人たちを掻き分けて、道路に立ち止まって動かない人の手を思いっきり引っ張った。
大人なだけあって、引っ張ると重くて自分の身体が傾いて。
周りの劈く悲鳴が聞こえた時には、トラックに身体が引き摺られ、叩きつけられていた。
小型トラックだと思ったら、大型のやつで驚いた。
