誇りっぽくて咳き込んでしまったけれど、何にも変わっていない、ぼくの部屋だった。
「ここ、こわい…」
「あ、電気つけようか」
真っ暗で何も見えないゆりちゃんが、繋いでいた手をぎゅっと握りしめる。
2人で部屋の中に入り、電気の光が漏れないように部屋のドアを閉めた。
殺風景と言うか、何にも買って貰えなかったから、父親から盗んだお金で買ったものしか置かれていなかった。
そこで白い紙切れと書くものを用意して、手を動かす。これは父親への、最初で最後の手紙。
手紙の内容は、一生に一度のお願い。
それを書き終えたあとは、目的のものを持って自室を出た。
「ねぇお兄ちゃん。これ、もらってもいいのかな?」
そう言いながら差し出されたゆりちゃんの手には、ぼくが小さい頃に使っていた苺のゴムだった。
「…うん、いいよ」
「ほんと?やったぁ!」
かわいいな……。
と、もうそろそろ行かないと燈真も待たせてるし、父親が帰ってくるかもしれない。
そう思い、もう一度ゆりちゃんと同じ目線になるように屈んだ。
「ゆりちゃん、今日お兄ちゃんがここに来たことは、内緒ね」
「えぇなんで?」
「うーん……お兄ちゃんね、この街のヒーローなんだ」
そう言った瞬間に、世界のヒーローにすれば良かったと少しばかり後悔した。
