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「へぇ、ここ」

「うん、ここ」



そう言いながらやって来た場所は、以前住んでいた家。

アパートだから、父親が声をあげればお隣さんに聞こえてしまう。

それに申し訳ないと思っていたのと、助けてくれるのではないかという期待が混じっていた家。


生まれた時から、ここにはいい思い出がない。


言うのなら、やっぱり兄がいたこと。それだけが救いだったから。

母親も眺めるばかりで、兄を抱きしめながら暴力を浴びるぼくを見ていた。



「燈真はここで待ってて。すぐ戻るから」

「ほんとに、行くの?」



少し不安そうな顔をした燈真が、子犬のような目で見つめてくるもんだから、違う意味で心臓が痛い。