そんなの嘘に決まってる。
元々、ぼくと兄ちゃんは母親の方に引き取られる予定だったんだけど、急にそんなこと言い出して。
それで「分かった」なんて言った母親もどうかと思ってしまうけど。
『──────────じゃあね、 伊緒。』
なんて言って、兄ちゃんの手を引いて家を出ていった。
その日は泣いても泣いても、誰も頭を優しく撫でてはくれなかった。
「逆に、それどころかうるさいっつって殴られてたけど」
父親にとってぼくは救いなんじゃなくて、自分の中に溜まったものを吐き出す道具。
ストレスを発散して、満足するまで酒を飲んで殴られ蹴られ。
本当に酷い日は、言葉にできないほど荒々しくて。
良くもまぁ生きてたなと思う。今になっては。
「お風呂にも入らせてもらえなくて、学校に行けば汚いって言われてバイ菌扱い。それは学年が上がる事に酷くなって。
暴言だけだったのが物を隠されたりして。中学に上がった頃には足引っ掛けられるし、ボールは当てられるし、季節構わず水はぶっ掛けられるし」
本当に散々な日々だった。もうそれはぼくにとって日常。当たり前のこと。
家での暴力も学校でのものも、全部が当たり前で。
