「あ、やっぱり……」



ぼくの目はちゃんと仕事をしていたらしく、さっき見えた人物は優真だった。

そして、一度深呼吸をして優真に声をかけようとしたその瞬間だった。



「……え…っ?」



個室のドアがしまろうとするその瞬間、白衣を着た先生たちの間から見えた患者さんの顔。

優真へ伸ばしかけた手はそのまま宙を浮き、もう閉められてしまった個室のドアを見つめる。



「──────────…ぼく……?」



そう口から出た声は、震えていた気がした。


だって、そう。あれは、ぼくじゃないか。

紛れもない、間違えるはずもない、存在しないはずの─────────ぼくじゃ、ないか。


そう自覚した途端、キーン───────と甲高い音が耳元で鳴り出した。

脳裏を素早く過ぎるのは、消し去りたいと願ったぼくの記憶。


全部の、記憶。


そして恐らく、何故もう1人の自分がここにいるのかという大事な記憶が脳裏を鮮明に過ぎっていく。

いつか一瞬だけ脳裏を過ぎったたった1部のあの記憶。


あの大きな音と、狭間見えた澄んだ青い色。

あの独特な感覚と、噎せ返るような匂い。


優真の焦ったような顔。ぼくがいる個室のドアを、どうしてそんな不安そうな顔で見てるの。


そんな横顔を見つめていると、ゴンッ──────────と何かで殴られたかのような衝撃が頭に走った。


それからゆらゆらと揺れ出す視界は、あの時一瞬だけ見た陽炎のようだった。