洗い物する時は、お湯で流した方が汚れが落ちやすいよね。
夏場は暑いけど。
そんなことを思いながら、手を動かす。
『…そう、僕はそのために来たんです。あなたの記憶を消してしまうために。そのために、あなたをお呼びしました。』
ぼーっとしながら洗い流していると、ふとそんな言葉が頭に浮かんだ。
あの時の、天使さんの言葉。
……いや、違う、のか。…兄、の言葉。
ぼくは、記憶を消されたのではなく、望んでそうなったというとこなのか。
記憶を消したくて、僕が望んでそうなったこと。
でもぼくは、どうして記憶を消したいと願ったのか。
そこが重要になってくるんだろうけど、全然分からない…。
きっとそこが、僕の記憶が蘇る鍵だと確信したんだけど。
何故か、どうしてか、とても大事な部分が抜け落ちていた。
「…わからん…」
なぜだ、なぜなのだ自分よ……。
こんな性格だし、優からも幸せそうだって言われたし、そうだったのかもしれないけど。
でも、だとしたらなぜ、幸せなのに記憶を消したいと思いたったのだろうか。
「……あ〜ぅ、わからん」
さっきからあうあう言ってるけど、誰にも聞こえてないよね。
そんなことを思い、チラチラと周りを見渡してみる。
誰も居なくて安心した。
けど、このことは星奈たちにも言った方がいいのだろうか。
………いや言わないと、なんのためにぼくここにいるのかわかんなくなるではないか。
そう思ったぼくは、後で星奈たちに言うことにして最後の食器を洗い流した。