ぼくが歩くのをやめてその場に立ち止まると、1歩先を歩いていた天使さんも立ち止まった。
「じゃあ、お願いします」
そう言うと何か言いたげな顔をした天使さんと目が合ったけれど、それには敢えて反応しなかった。
後悔?未練?
そんなもの、ぼくには存在しない。
「……わかりました。では、お元気で。」
それを堺に、だんだんと意識が遠のいていくのがわかった。
目の前で天使さんが、ゆらゆらと揺れている。
輪っかのようなものが、さっき見たのと同じように少しだけ色が落ちていた気がした。
「────────ありがとう、伊緒。」
現実なのかそうじゃないのか、微睡みの中で天使さんが優しく微笑んだ。
……あぁ、ごめん。気づけなかった。
だって、あまりにも顔が変わってるんだもん。
だけど、その柔らかい笑顔と性格は、変わってなかったな、昔と。
「……兄ちゃん…」
真っ暗闇の中、兄の名前を呼んだ自分の声だけが虚しく耳に届いた気がした。