私は何故か、10歳の平凡な小学生になっていた。

しかし違和感は無かった。
いや、正確には違和感が無いことに違和感を示していた。

昔からその身体にいて、あたかも全ての感覚が自分に順応しているかのような、夢の中では初めて感じる感覚だった。

現実で10歳だった時と同じく、4人家族で8歳の弟がおり、両親は30代のどこにでもいる平凡な夫婦であった。


しかし普通では無いところが一つだけあった。

それは、家庭内での暴力や盗み、物の破損等が頻発していることだ。

これも悲しいながらも現実で起こっており、
暴力と物の破損は父が、盗みは弟が働いていた。

ある日私と家族一行は、海へ向かっていた。

途中で父が、
「おい、ちゃんと準備したんか?」
と言った。

煩いな、と思いながらも気の抜けた声で、
「したよ」、とだけ返した。

すると少し怒ったかのような声で、

「お前は殆ど準備してないだろ」
と言われた。

実際に準備をしたのはほとんど私だった。

しかし、ここで言い返すと余計に激昂するので、謝るだけ謝っておいた。

幸いにもいつも通り受け流せたようで、さほど車内の雰囲気が変わらないままの状態で海に着くことが出来た。

海に着くと、みんな一息ついてからBBQの用意を始めた。

その中、一人だけ父は釣りの準備を始めていたのだが…

それは兎も角、BBQの準備を終わらせた私もいそいそと釣りの準備を始めた。

父から教わった中で、唯一自分のためになったのは釣りだった。

というのも普段仕事に行き、母の家事に文句を付けながら過ごす父に見習える点など無かった。

そのため、
私の目には立派に釣りをし、他人や自然に気遣っている父の姿がとても新鮮に見えていた。

そして私はその技術を吸収したいがために、釣りの際は常に傍にくっ付いていた。

結局その日の釣果は芳しくなく、いつも通り竿を仕舞った訳だが…


BBQしたあとの後片付けをしている時、何故かとても海の水が引いていた。

というのも地震があったらしく、小さい津波がくる、との事だった。

みんな避難していく中で私達家族一行は、
小さな津波であれば大丈夫であろうと高を括っていたため、
小さな車の中で仮眠を取っていた。

その判断が誤っていたと気付くまでに、さほど時間はかからなかった。