恋愛履歴書

第四章【王子は王子であるから優しいが優柔不断】
その後も、私は同じバイトを続けていた。

鋼とははっきり別れていると自覚はあった。
でも、私を振って、新しい女を作ったくせに、鋼にも少なからず、未練があったらしい。
控室で二人きりになると、たまにキスされたり、帰りに鋼の家に寄るといい雰囲気になりSEXもした。
私はいつの間にか、浮気相手になっていたのである。

他に、好きな相手もいないし、なんだかどうでも良かった。
とにかく、優しいお兄ちゃんと離れたくなかったので、されるがままにしていた。
もう、二度と笑って冗談も言い合えない中になるくらいなら、今の関係を取ったと言うだけだった。

『優柔不断だな・・・。鋼も私も』

自分と、鋼双方に呆れていた。

一度、朝バイトで迎えに行ったら、ひかりちゃんが泊まっていた事があった。

『ひかりがいるから、今日はくるな。』とか何とでも連絡がつくのに、鋼は何もしなかった。

ひかりちゃんも、私が来るのは聞いていたらしい。
藍衣「おはよー。あれ!?ひかりちゃん!おはよー」
ひかり「昨日、学校のコンサートがあって終電のがしたから、泊めてもらったの。」

気まずそうな顔をする、鋼を見る。

藍衣「そうなんだ、おじゃましちゃった。言ってくれればよかったのに。」
鋼「来るのは言ってあったし、べつにいいよ。」

ひかりちゃんは私の顔を見るなり
ひかり「もしかして、私って顔デカイ??」
と鋼に聞いた。
鋼「いや普通だと思う・・・藍衣が小さすぎるだけじゃないの?」
藍衣「へ?なんの話よw」
鋼「藍衣は顔小さいよな。ほかの女の子は見てると、自分の顔がデカく感じるみたい。」

家を出発するとひかりちゃんが言った。

ひかり「なんか、私たちって似てるよね。背格好とか見た目とか。」
藍衣「そう?ひかりちゃんの方が断然顔整ってるけどね。」
ひかり「ま、それはそうねw」
藍衣「否定しないんかい!そういうところが好きだわw」
そう、私たちはタイプが似ている。
しいて言えば、ひかりちゃんの方がよりお人形さんのような顔をしている。
そして数倍気が強い。
小柄で、ロリータ服が似合うような、お人形さんみたいな顔の子が、鋼の好みってことか。
と納得した。

私は、それ以来朝は迎えに行くのをやめた。
帰りは、一緒に帰る事もあるが、なるべく鋼の家にもよらなくなった。
きっぱりと、あきらめようと思ったのである。

ところが、池袋に友人と買い物に行った時に。
新しくバイトにはいった、蓮ちゃんと言うコスプレ店員と鋼がデートしている所にばったり出会ってしまった。
藍衣「また浮気デートですか、お兄さん。」
鋼「いや・・・悩みがあるって言うから、待ち合わせしただけ。」
完全に目が泳いでいる。
その夜、ひかりちゃんを思うと、何とも複雑な気分になり、鋼に電話した。

藍衣『もうさ、ふらふらしなさんな。蓮ちゃんが鋼ちゃんを好きなのはみんな知ってたけど、君にはひかりちゃんと言う彼女がいるでしょ?いい加減にすぐ手を出さないの。相手が本気になったらかわいそうでしょ。ひかりちゃんにも失礼でしょ。』

鋼『はい・・・わかりました。もうしません。いい加減でした。』

実は、電話している鋼の横にはひかるちゃんがいた。
浮気デートの件は、私の電話でバレた。
ひかるちゃんからは、私を思って浮気を未然に防ぐ為、鋼に説教してくれたため。
「藍衣ちゃんえらいじゃん!」と感謝されたらしい。

浮気相手をやめ、元カレの浮気を未然に防ぎ、吹っ切れた私は普通にバイトを楽しんでいた。


そんな私に、ご褒美がやってきた。

バイト先の斜め向かいには、小中大で言えば中型クラスのライブハウスがあった。
有名なバンドも来るし、対バンで何組かのバンドがライブをやったりする。

その日、見たまま
ヴィジュアル系バンドの出演者です!
と言う見た目の人達が、店に来た。

美羽「なにあれ・・・藍衣の友達?」

藍衣「いやいや友達じゃないけど、あれって今日ライブハウスに来てる、関東関西カップリングツアーの関東のROSEと関西のバロックってバンドの、バロックの人たちじゃないかな。みっちゃんって私の友達が、さっきライブ見に来たって私に差し入れ持って来てくれたの見てたでしょ。」

美羽「へー。藍衣どれが好み?w」

藍衣「えー、わたし?・・・あ!私あの人がいい!あのゴーグル付けてる人。」

美羽「ほー、私はあっちのプロテクター付けてる人がいいなぁ。」

私も、美羽もヴィジュアル系ファンだった。
たまたま、関西を拠点にしているバロックのライブには行った事がなかった。
私の友人のみっちゃんは、好きで関西までよく行っているらしかった。
バロックは、正式名称を「Baroque Music Master」と言い、バロックやBMMなどと呼ばれていた。

ゴーグルをつけた、バロックのメンバーがなにやら、同人誌の棚で本を探していた。
『何かさがしてるっぽいなぁ。声かけようかな・・・。』
などと思っていると、そのメンバーが振り返って私に手招きした。
ゴーグルのメンバーは、リードギタリストのNAOと言った。

藍衣「何かおさがしですか?」
NAO「赤頭巾ララの同人誌って、ここに入ってへんかったら1冊も残ってないんかな?関西にはこう言う店ないねんやんか。」

藍衣「在庫が、バックヤードにあるかもしれないので、お探しできますよ。ちょっとお時間をいただきますけど大丈夫ですか?」

NAO「ほんま?・・・でも俺ら、これから出番やから、あんま時間ないねん。」

藍衣「今日中に探しておいて、明日以降に再度ご来店していただければ、それまでお取り置きできますが、どうされますか?」

NAO「あ!それやったら明日も同じ場所でライブやから、また明日くるわ。」

藍衣「では、お取り置きしておきますね。」

私は、営業スマイルで対応した。
相手もニコリと笑うと

NAO「おねぇさん、そのコスプレかわいいわ。似合ってる。」
藍衣「ありがとうございます。(おにいさんこそ、私のめっちゃくちゃタイプですけど。)」さらにかわいくスマイル。
NAO「ああ・・・もう時間や。そんじゃ、明日また来るから取り置きよろしく!」
藍衣「かしこまりましたー。ご来店お待ちしておりまーす。」

その日、閉店後に美羽と二人で、赤頭巾ララの同人誌やグッズを探した。

美羽「本当に、また来てくれるかね。」

藍衣「同人誌買える店が関西には無いらしいから、来るよ。」
私たちの在庫荒らしをたまたま見ていた、いとこが呆れる。

結衣「あんたたち本当に好きだねー。ヴィジュアル系男子、あんなの元の顔わからないじゃん。」

藍衣「私、特技があるの!ヴィジュアル系の人が化粧してても、大体の素顔がわかるの。かっこいいか、かっこよくないかわかる。今日の人は絶対にかっこいい!」

美羽「マジで?すごいね。あたしぜんぜんわかんないわ。」
そんな、女子トークを展開しての在庫探しが終わり、その日は美羽と鋼と結衣3人で駅まで向かった。

翌日、7時半過ぎだった。
NAO「こんばんは。えっと・・・わかるかな?」
入口に立っている私にわざわざ話しかけてくる、ロングヘアのメチャメチャ好みの顔の男性がやってきた。
化粧もしていないし私服だったが、私はすぐに、昨日のバロックの人だと分かった。

藍衣「いらっしゃいませ。何冊か在庫があったのでお取り置きしておきましたよ。あとグッズも何点か探しておきました。」
NAO「おお!わかるんや?!化粧してへんしわからへんかと思った。」
同じく入口に立っていた美羽も、素顔を見て好みだと思ったのだろう。
すかさず、荷物を預かると「藍衣在庫持って来てあげて、中に案内しておくから。」
とさっさと、誘導して連れていってしまった。

藍衣「はーい。」アホである、私は【在庫を持ってくると言う役割】を与えらることで、美羽に体よく話しかけるチャンスを、先越されたのに気が付かなかった。

美羽と言えば、鋼と別れた直後
「気が付かなかったのかもしれないけど、あんたが好きになる前から、実は私もずっと鋼ちゃんが好きだった。」と言われた。

藍衣「えぇ!?それは・・・全く気が付かなかった。ごめん・・・言ってくれたらよかったのに。」

美羽「藍衣さ、学校行ってる時も、しょっちゅう早めに来たり、学校休んでバイト入ったりしてたじゃん。」

藍衣「学校より、バイトの方が面白かったんだよね。そういや支障が無い程度に学校休んでたわ。」

美羽「正直さ、【今日もまた来たよ!】と思ってた。鋼ちゃんはなんか嬉しそうだしさ。クソッと正直思ってた。w」

藍衣「マジか!?・・・そりゃー全く気が付かず本当にごめん。wでも、私は失恋したけどね。」

後日、バイトの帰りに、鋼が言いにくそうに言ってきた。
鋼「この間、美羽ちゃんに呼び出されて、二人でお茶してきたけど。まぁちゃんと断ったから。一応言っておく。」
藍衣「ああ・・・そう・・・。そっかわかった・・・。(あれは鋼に告白するぞと言う予告だったのか?そして鋼は私にそれなりに未練があって気を使っているのか・・・。)」
と言うエピソードがあった。
男の趣味がかぶっている・・・これほど面倒な事はない。
しかも、美羽は積極的なタイプであるから、今回のバロックの人にもアプローチするだろう。

私が、同人誌の在庫を持って行くと「ありがとう。」と美羽が受け取った。
それを渡して、美羽がお礼を言われている。
さすがに「なぜ?頼まれてたのは私なのに・・・。」とは思ったが、引き下がって入口の持ち場に下がった。

見ていると、少し話した後。
「もう少し店内を見るから、取り置いた本は買うのでレジに置いておいてほしい。」と言われていた。
美羽が、取り置きの本をレジに置きに行った間に、バロックの彼は私の所にすぐに来た。

NAO「取り置き、ありがとう。今後も、いいのが入ったら取り置きして教えてもらえへんかな?東京の友達に買うてもらって、大阪に送ってもらうわ。」

藍衣「もちろん、いいですよ。」
NAO「ほんま、じゃあこれ俺の連絡先。もう一人の子ぉには内緒な。明日の夕方にはもう関西に帰ってるから、連絡して。そっちの連絡先が聞きたいから。」

紙を見ると、バンド名と担当楽器とステージでの名前、本名と電話番号と住所が書いてあった。
本名は、窪島直樹 住所は大阪だった。
それだけ渡すと、彼は店内に入って行った。
『電話番号をゲットしてしまった・・・内緒か。なんだかドキドキする。』

その日、私は久々のときめきを感じた。
その日も、鋼と一緒に帰った。
「あの派手なバンドマンと仲いいの?」とか聞かれた。
大いに気になるがいい・・・。私を振った罰だwと思った。

罰で思い出したが、私と付き合っている時に鋼はお肌の調子が良く、とても綺麗な顔をしていた。
所が、私と別れたとたんに、お肌の調子が悪くなり、ニキビと言うのか痘痕(アバタ)と言うのかそういうものが、顔じゅうに出来て皮膚科に通て苦労していた。
鋼いわく『俺が、一番綺麗な時に付き合ってた女。だから藍衣の事は絶対に忘れない。』のだそうだ。

もしかして、私は呪いかなんかを、知らないうちにかけていたりするかもしれない。
基本的に、私は上げまんと言うやつらしいのだが。
私と付き合っている時に、鋼にCDデビューの話が来て、レコーディングしていた。
別れた後に、CDは発売されたが、鋼の顔はボロボロな上にCDもあまり売れなかったらしい。
せっかくの綺麗な顔がボロボロなんて残念だし、呪いなんてそんなつもりはないので、『ごめんね』と思った。

翌日、私はNAOちゃんに電話した。
NAOは私の名前を知らないから、自己紹介からやり直した。

NAO「藍衣ちゃんね、よろしく。俺はNAOでいいよ。」
藍衣「じゃあ、NAOちゃんて呼ぶね。」
NAO「実は、同人誌はどうでもよかってん・・・ただ、藍衣ちゃんがかわいいし気になってしゃーないから、どうしても連絡したかってん。いややなかったらやけど」
藍衣「うれしいよ。嫌じゃないから大丈夫だよ。ありがとう」
NAO「ほんま?!よかった。藍衣ちゃん俺ら見ても全然びっくりしてへんかったな。元々バンドとか好きなん?」
藍衣「うん、私も美羽もヴィジュアル系好きなの。」
NAO「ああ、だから大丈夫やったんや。怖がられるかと思ったんに、普通にしとるから不思議やった。」

などと、他愛ない話で電話は2時間ほど続いたのだった。

それから、2カ月ほどしても私とNAOは、毎日電話していた。
その中で、最近失恋したことなども話していた。
電話しだしてから、一カ月ほどでNAOには「本妻として付き合ってくれ。」と言われた。

ヴィジュアル系バンドマンの暗黙の恋愛を知っているだろうか。
ヴィジュアル系バンドマンの男と付き合う場合、まれに本妻・みつぎと呼ばれるタイプに分けられる場合がある。
バンドマンでも、本妻だけの男ももちろんいる。
本妻がいない場合のみ、みつぎを何人か持って、ツアー代等を貢いでもらっていたりする場合もある。
本妻がいても、みつぎを持っているバンドマンももちろんいる。

NAOがいった、「一カ月待ってくれ。ほかの女全部切っておくから。切ったら会いに行く。」
NAOは、本妻がいない場合はみつぎを作るタイプだったようだ。

藍衣「ええ?!・・・そう。ありがとう・・・。」また、他の人を失恋させるのか。
やはり、いい男には絶対に女はいるんだな。
複雑な気分だった。

その一か月後は、私の誕生日だった。
私が、サポートメンバーとして入っているバンドのベースの子の家に集まって、誕生日会をしてくれる為集合していた。

メンバーにはケンちゃんとケンちゃんの彼女もいる。
ベースの子は、ユウヒデと呼ばれている女だったが、同居人は美羽だった。

ユウヒデの家にいる時に、NAOから電話がかかって来た。
私が、NAOと付き合うのはユウヒデやケンちゃんには言っていたが、美羽には言いにくくて実は言っていなかった。
私が電話していると、美羽が「相手だれ?NAOちゃん?話したーい変わって!」
とか言ってきて、どのタイミングで美羽に言えばいいのか迷った。
藍衣「今日ね、私誕生日なの。」
NAO「うそやん!おめでとう。なんで言わへんかってん・・・。いってくれたらプレゼント送ったのに。」
藍衣「いや、そうやって気を遣うだろうな・・・。と思って言わなかったの。おめでとうだけでいいよ。ありがとう。」
NAO「なんやそれ、めっちゃいい子やんか。やばいな、かわいいな。」

美羽「ねー替わってよー。藍衣ばっか電話しててずるいー。」
しょうがないので、美羽と替わる

NAO「久しぶりやね。自分この前店で対応してくれた子ぉやんな?」
美羽「そうでーす。美羽ちゃんです。よろしくね。」

ゆうひで「美羽、藍衣ちゃんとNAOちゃん付き合うんだってさ。」
美羽「ええ?!マジで?本当に?」
NAO「そうやねん、自分もかわいかってんけどな。どうしても藍衣ちゃんが気になって俺から言うてん。ごめんな。」
美羽「だから、藍衣の所に電話がかかってきたのか!なんだよーもー。」

藍衣「言いにくくて・・・言い出せなかった。悪い!!」

美羽「なんだよーNAOちゃんかっこいいと、思ってたのにー。藍衣モテるなー。」

今日の電話は3日後に、ユウヒデと一緒にNAOのライブに行く予定だったので、その確認だった。
とりあえず、電話をスピーカーにしてみんなで電話した。

先週の時点では行ける予定だったが、今週になりユウヒデが行く予定のイベントを忘れていて急遽いけなくなったので、私一人でライブに行くと伝えた。

ところが、「一人やったら、ライブは来たらあかんは。ファンの子ぉらに何されるかわからんから。あぶない。」
と言われた。

前に話したが、切ったみつぎの中にはライブに来ているファンもいるらしい。

NAOは本妻を隠すタイプではなく、普通に連れ歩くそうで、ライブでも打ち上げでも一緒にいられるときは手を繋いで常に行動を共にするのだそうだ。
なので、本妻はファンにはすぐ判る。
そのため、一人になった場合、階段から突き落とされたりする場合があり、誰か見張りがいないと危険なのだそうだ。
結衣「そんなの、怖すぎる・・・。」

ケンちゃん「うお・・・怖いんだねファンの子って。」
バンドマンの彼女って、大変なんだな・・・。と思ったのだった。

しょうがないので、今回のライブはあきらめて、その次の週末にNAOが東京に来てくれることになった。
NAO「連休近いやんな、新幹線はよ取らな席無くなるな。3泊位したいからはよホテルも取らな。」
藍衣「ありがとう、待ってるよ。」
NAO「ほんじゃ、またチケット取れたら連絡するわ。おやすみ」
藍衣「はーい、おやすみなさい。」
電話を切る。

美羽「藍衣ばっかりモテるのなんでだー!」
藍衣「わからんけど・・・ごめんw」
ユウヒデ「こればっかりは、相手の好みがあるからしょうがないね。」
ケンちゃん「鋼ちゃん知ったら、どんな反応するんだろうな。」

ユウヒデ「誕生日なんだから、とりあえず乾杯しよう!」
藍衣「そうだった、ありがとう!」
ユウヒデ「では、藍衣ちゃんの誕生日にカンパーイ!祝い20歳」
ケンちゃん「お酒解禁!」
藍衣「堂々と解禁させていただきます!」
美羽「飲んでみたら実は強かったりしてね。酒豪だったりさw」
藍衣「うちの親、二人とも酒豪なんだよね。サラブレットだから強いかもよ。とりあえずビールはまずい事は分かった・・・苦いっ!」
ユウヒデ「甘い缶酎ハイとか缶のカクテルあるよ。そっちにしたら?ビール残りは飲むよ。」
藍衣「ありがとう、甘いのがいい!」
ケンちゃん「ケーキも甘いから、俺はビールがちょうどいい。」
ワイワイと楽しい誕生日を徹夜で飲み明かしたのだった。

そして、次の週末。
予定通り、NAOは東京にやって来た。