恋愛履歴書

第三章【知らぬ間に魔女は忍び寄る】

毎日一緒にいれば、合わない事もでてくる。
ある、雨の日だった。
いつも通り、バイトなので鋼の家に鋼を起こしに行く。
藍衣「鋼・・・おはよう」
鋼「うう・・・眠い・・・動けない。」
藍衣「どうしたの?」
鋼「今日、休むは・・・。」
藍衣「えー、ずる休み?ダメだよーがんばってー。」
鋼「・・・。」ムッとした顔で起き上がる
ガバッと首根っこを後ろからつかまれた。

藍衣「きゃー!ちょっとなんで?え?!」

そのまま、ぽいっと部屋からつまみ出される。

藍衣「ちょっとー!ひどいなにそれー」私は泣きながら
ドンドンとふすまを叩いて訴える。

鋼「店には電話しとく、体調不良で休み!藍衣は早くいけ!」
中から、今まで聞いた事のない荒い鋼の声が聞こえてきた。
私は、泣きながらしぶしぶ一人でバイトにでかけた。

その日、鋼は午後から遅れて出勤してきた。
『人が起こしに行っているのに酷い仕打ちだ!』とお子様な私は思ったが
鋼には鋼の事情があったのだ。

閉店作業の時に、休憩室に備品を置きに行くと鋼がいた。

鋼「藍衣今朝は本当にごめん。」
藍衣「もー、すごい怖かったんだからね。」私は思い出してまた涙ぐんだ。

鋼「おれさ、雨の日とか関節が痛くなる時があって動けなくなるんだよね。病院でリウマチかもって言われたんだ。24歳でそれってすごいショックだった。藍衣は知らなかったのに、放り出して本当にごめん。」

藍衣「え、そうしたら雨の日は無理に起こさないようにした方がいいの?」
鋼「うん、俺が動けないとか言った時は、先に行っちゃって。ごめん」
藍衣「わかった、私も、ずる休みとか言ってごめんね・・・。」
キスすると頭を撫でられて、抱きしめられた。

その何日か後、私はその当時好きだったバンドのツアーで地方公演を友人と見に行く約束をしていた。
前々から決まっていて、鋼にはまだ話していなかった。
その日、バイト後に鋼の家に寄ってから、家まで送ってもらった時に話した。
二人で、家の前の縁石に座って15分位話してから解散するのが毎回だった。

藍衣「そうだ、明後日から2泊で友達と、黒夢のライブを見に石川県の金沢に行ってくるよ。」
鋼「え・・・、友達?2泊も?あんまり行ってほしくないなぁ・・・。」
藍衣「ごめん、付き合う前から決まってたから言うのすっかり忘れてたんだよね。」
鋼「そっか・・・。わかった」
抱きしめられて、耳元で「本当に行くの・・・?」と言われた。
藍衣「うん・・・ごめんね。」と言うと、鋼が首筋にキスしてきた。
チリッとちょっとした痛みがあって、見てみるとキスマークがついていた。
ハイネックでも着ないと、普通の服では見える位置だった。
今考えると、鋼は浮気性なたちなので、もしかすると浮気されるかもしれない、と思ったのだろう。
本当に女友達と行くのか、軽く疑いマーキングされたのだ。
結局、女友達と黒夢を見に行き、兼六園も見て、帰りに偶然黒夢のメンバーと同じ新幹線の同じ車両で帰って来たのだった。

話は変わるが、バイト先に
宮城さんと言う、見た目が熊のようだが、優しい男性の一般店員さんがいた。

宮城さんは、私と鋼の家のちょうど中間にあるマンションに住んでいた。
全く知らなかったのだが、ある日たまたまマンションからでてくる宮城さんにバッタリと出くわした。

宮城「ああ!藍衣ちゃん。すごいね偶然だね。」
藍衣「宮城さん、ここに住んでるんですか?めちゃめちゃ近いじゃないですか。」
宮城「ちょうどいいや、俺の田舎が名古屋なんだけど、鍋焼きうどんを大量に送ってきたからもらって行かない?」
藍衣「いいんですか?ありがとうございます!」
宮城「玄関の前で待ってて、用意して持ってくるから。」
その日、名古屋のインスタント鍋焼きうどんを大量に持って帰り、私はほくほくだった。

宮城さんいい人だなー。
バイト先でも優しいし、ありがたいわー。
などと、のんきな事を考えているおめでたい私だった。

そんな折、宮城さんは中野の本店に移動となってしまった。
せっかく、良くしてもらったのに、残念だったなぁと思っていた。

私より、2カ月ほど遅く入って来た、コスプレ店員で元々友達だった美羽ちゃんが言いにくそうに私に言った。

美羽「藍衣さ、宮城さんっていたじゃん、仲よかった?」
藍衣「仲良かったかはわからないけど、優しくしてもらったよ。」

美羽「あのさ宮城さん・・・本店であんたの事彼女としてみんなに話してるみたいよ。」
藍衣「!?・・・・え・・・。どういう事・・・。」
なぜかショックすぎて泣けてきた。

美羽「だよね・・・藍衣の性格からしたら、泣くと思ったよショックだよね。鋼ちゃんと付き合ってるのなんて、こっちじゃみんな知ってるじゃん。なのにさ本店では変な話になっててさ。」

鋼「あのな、家も近所にわざわざ引っ越してきたらしいぞ。気持ち悪い。」

そうなのである、宮城さんは私のストーカーだったのだ。
鋼「あとは、他の店員さんと俺でなんとかするから、藍衣はもう気にするな、かかわらなくていいよ。」
そういいながら、鋼が頭を撫でてくれた。
私は、アホだ、すぐに人を信じる。
しかも、悪い人がいるとも思ってもいなかった。
玄関の外とはいえ、一度はマンションに立ち入っている・・・。
もし、宮城さんがもっと危ない人だったら、何かしらもっと悲惨な事件になっていたかもしれない。

一般店員さんは、中野の本店と渋谷の支店を、人が足りないとヘルプで行き来する。
その関係で、他の一般店員さんが聞きつけてきたらしい。
でも、私が鋼と付き合っているのは、渋谷店の店員さんみんなが知っている事だった。
宮城さんが、本店に完全に移動になったのも、どうやら宮城さんの不審な言動を懸念して店長が移動させたらしかった。
その後、どんな話し合いがあったのかどんな措置があったのかは知らないが、私には一切知らされなかった。

ちなみに、その5年後位にまだ宮城さんは、まだ同じマンションに住んでいたらしく。
ある日突然、【藍衣ちゃんへ、とても想像通りに華麗にかわいくいい感じに成長しましたね。】と言う手紙とともに、色々なコスプレグッズが住所を書いて宅配で送られてきて、再び驚愕したのだった。

ストーカー事件の何日か後、バイト先の飲み会があった。
私と鋼はもちろん同じ電車に乗るが、一人コスプレ店員が同じ路線だった事がわかり一緒に帰った。
名前は、マドレーヌ。
苗字が間取(まどり)だから、マドレーヌと言う名前がついた人だった。
マドレーヌは、渋谷系の元チーマーだかヤンキーだかその辺の筋の人だったらしい。
肩までの長髪と、やたらとムキムキなのがトレードマークで、なかなかの男前だった。

帰りの電車内は23時過ぎ。
残業帰りの疲れたサラリーマンと、酔っ払ったサラリーマンと、酔っ払った若者でそれなりに混んでいた。
隅の座席が一つ空いていたので、鋼が私を座らせてくれた。
私の前に鋼が立ち、隣にマドレーヌが立って話しながら帰っていた所、マドレーヌの隣で吊革につかまっていた、酔っ払いサラリーマンが、マドレーヌと鋼に絡んできた。
はじめは無視して話していたが、何度か「うるせーなぁ・・・チャラチャラしてやがる」とか絡んできて結構しつこかった。

マドレーヌは、急にニヤニヤしながら、酔っ払いサラリーマンを見ると、いきなり肘鉄をくらわした。
酔っ払いサラリーマンの脇腹にヒットして、「ぐあっ!!」と言うと、彼はよろけた・・・。

藍衣「え!?何やってんの!」私は何が起こったのかわからず、びっくりした。

びっくりしたのもつかの間、吊革の反動を利用して鋼がライダーキックのように【びよーん】とキックをお見舞いした。
相手は、ドテーッと倒れた。

藍衣『え?!ええぇ?!ちょっとやめなよー!』半ばパニックになる私。

周りは、ちょっとざわざわし始めた。

マドレーヌが肘鉄をくらわせたのは、乗っていた急行がちょうど乗り換え予定の駅に着いた時だった。
そして、ドアが開いてすぐ、鋼のキック。
その後、鋼が私の手を引き、「よし逃げろー!!」と笑いながら言うと、走って3人で電車を降りた。
その直後に、急行のドアが閉まり、電車は発車していったのだった。
絡んできたとは言え、いま考えたら傷害である。
相手は、結構なケガをしたんじゃないかとも思う、あばら骨の1本や2本位折れていたんじゃなかろうか・・・。

酔っ払っているとは言え、笑い転げる鋼とマドレーヌには呆れてしまった。
藍衣「うそでしょー。あんな喧嘩やめなよー。ダメだよー。」まだ19歳の私は怖いし、呆れるし、恥ずかしいしで半泣きだった。
とりあえず、次の各駅に乗って私たちは中井草で降り、マドレーヌとは別れた。

その日、あんな事があったのに、鋼はご機嫌だった。
私は、鋼の家に泊まることになり、先にお風呂を借りていつものピ〇チューのつなぎを着て、冷えるのでフードもかぶっていた。

鋼が、お風呂に入ってちょうど部屋に入るために、襖を開けたタイミングで
テレビ裏から、【コトン・・・】と音がした。

ネコ?と思って音のしたところを覗いたが、ねこはおらず何の音か不明だった。
そこで、私は【なに・・・?】と首を傾げた。

それを後ろから見た鋼が、突然ガバっと抱き着いてきた。

鋼「かわいいー!やべー!なにそのかわいさ?!本当に何かの小動物みたいだった。かわいすぎる!似合いすぎだろーもー!」
藍衣「へ!?なんか音がしたんだよ・・・にゃんこかな?と思って。」
鋼「今、後ろから見た首を傾げた姿がマジでかわいかった!かわいい!」

鋼は、そのまま私を布団に押し倒すと、顔じゅうにキスを浴びせた。
その後で、長いキスをしてそのままSEXへとなだれ込んだ。
キャラクター的な可愛さを、一皮剥いたら女が出てくるギャップもえ。
鋼にスイッチが入ったらしい。
その日は、明け方まで離してもらえなかった。
翌日は、筋肉痛に悩まされる事になった私だった。

それからは、しばらく平穏な日々が続いた。

後日、鋼の家で飲み会があった。
前回の飲み会から、外では何回か同じようなメンバーで飲み会があったので

私と、ケンちゃんは仲良くなって連絡を取り合うようになっていた。
ケンちゃんは男女を感じさせないタイプで、女友達のような感覚で話せた。
ケンちゃんとケンちゃんの彼女や、友達と一緒にライブを見に行ったりもしていた。

そらちゃん、優弥くんも来た、今回はひかりちゃんが彼氏のひろやくんと一緒にきていた。
ひろやくんとひかりちゃんは、わりと最近付き合い始めたばかりらしかった。
鋼は、知らなかったらしくちょっとびっくりしたようだった。
飲み会には、イタちゃんと言う鋼の学生時代からの親友も来ていた。
イタちゃんは、アニメーターの仕事をしているそうだ。
優しいしゃべり方のとてもいい人だった。
私にも、色々としゃべってくれて、打ち解けたしなんだか癒された。

お酒を飲んで、かなり時間が経ってきたころ、鋼が何やら落ち込み始めて
あまりいいお酒の飲み方ではなくなってきた。
私は、ケンちゃんやそらちゃんと話していたが、様子を見ていたらしいケンちゃんに、鋼はどうしたのか?と聞くと

ケン「藍衣ちゃんにはあまりいい話じゃないけど・・・、ひかりちゃんとひろやくん付き合いだしたでしょ、ショックだったみたいだよ。藍衣ちゃんと付き合う前に鋼ちゃんはひかりちゃんが好きだったから。なんとなく面白くない部分があるんじゃないかな。」

藍衣「それは・・・うーん困ったね(あーこさんはどうした?!2年付き合ってたんじゃないのか?!)」苦笑いするしかない。
私の立場って・・・?ラブラブだと思っていたのは私だけか・・・。
となんとも言えない状況だった。

鋼と二人の時は、好きだと言われる。
かわいがってもくれる、でも飲み会の後から、何か心ここにあらずと言うか前より大事にされなくなったような気がする。
なんとも、複雑な状況が続いた頃だった。
その時付き合いはじめてから、4カ月半ほど経っていたが最近鋼の様子がやはりおかしい。

バイト帰り、仲の良い一般店員さんと楽しそうに話しながら、一緒に歩いている私を置いて話に夢中で、さっさと歩いて行ってしまったり。

この時は知らなかったが、おそらく前の飲み会の後位から、ひかりちゃんと鋼は電話で恋愛の愚痴を言いあったりと連絡を取る様になっていたらしい。
ひかりちゃんとの距離が近づいたせいで、一度収まったひかりちゃんへの恋心が再燃したようだ。

私は女の感が結構働く。

なんとなく、私に対するよそよそしさを感じて、そのいやな空気に我慢ができず私は鋼にズバリと聞いた。

藍衣「あのさ・・・もしかしてちょっと別れたいとか思ってたりする?」
鋼「!?・・・なんで・・・わかったの?」
藍衣「もぅ・・・なんで・・・まだ4カ月くらいしか経ってないのに。」
鋼「ごめん・・・まだ藍衣の事は好きなんだよ。でもさ・・・なんか藍衣いつも怒ってるんだもん。」
藍衣「だって、私に対する扱いが雑になって来てるんだもん。」
鋼「そうかな・・・。ごめんでもいったん・・・離れたい。」
藍衣「・・・。(この人は言い出したら変えない。今は引くしかない。)わかった・・・。」
私は、泣きながら家に帰るしかなかった。
私は、突然振られたのである。

私は、ものすごく後悔した・・・

『付き合うんじゃなかった。友達でいれば妹分のポジションで、楽しく特別でいられたのに。』

別に、独占したかったわけじゃない・・・キスしたかったとかSEXしたかったとかでもない。
心地よい鋼の気持ちの中にいたかっただけ。
一人っ子の私には、お兄ちゃんのような、鋼との関係が心地よかっただけだったのだ。
好きだったけど、loveではなく限りなくloveに近いlikeだったと思い知った。
でも、一度彼女になってしまったら、もう元の関係には戻れない。
時間が巻き戻ってほしい・・・。
鋼の友達も、大好きだったのに、もう遊べないんだろうな・・・。
どんなに願っても、【優しいお兄ちゃんの鋼】は戻ってこないだろう。
その後も、妹のポジションに戻る為
「朝起こしに行ってバイトに一緒に行く。」と言う事は約束えお取り付けた。
だが、すぐに鋼はひかりちゃんと付き合いだしたし、妹ポジションに戻れる事はなかった。