新学期が始まってから8日たつ。暦さんは未だ登校してない。彼女の家の書庫で読書をするという口実で会いに行くことに考えたが、完全に避けられているようだから、それも憚れる。これ以上接近したら、余計に気持ち悪がられてしまう。

「誰か、今日休んでいる風無さんの家にプリントを渡してきてくれないか」

 いつも彼女が休んだときは後日登校した日に配られるが、今回はいつ登校してくるのかわからないため、誰かに届けさせようということだろう。

 選ばれたのは吉田さんだった。うちの学校はこういう仕事をクラスの生徒会役員に任せる傾向にある。そして、女の子の家に行くのなら同じ女子だ。

 そのまま終了する流れかと思いきや、待ったがかかる。

「暦ちゃんの家には歩が行きます」

「‼」

 ストップをかけたのは龍也だった。

 担任は驚いた様子を見せるが、大半のクラスメイトは賛同する。

「そうだな。吉田は塾通っているしな」

「喜録くんの方が放課後暇っぽいし」

「真面目だし、適任じゃない」

 クラス全体が賛成の声に押され、先生も最終的に僕を選んだ。

 ホームルーム後、帰ろうとしている龍也を呼び止めた。

「どうして、みんなの前で僕を推薦したんだ」

 怒ってはいない。龍也がからかい半分で言ったわけではないとなんとなく察している。

 龍也は周囲に聞こえないように小さく「花火のとき暦ちゃんに告白しただろ」と耳を打つ。

 驚きもしなかった。龍也なら、花火のとき戻って来た僕らの様子を見たら勘付くだろう。夏休みが終わったのに、僕の思いの丈を暦さんに言わなかったことがなによりも証拠だ。

「昨日、暦ちゃんに対してぎこちなかったろ。ちゃんと話して向き合ってこい。フラれたら、慰めてやるから」

 龍也に背中を押され、僕は暦さんの家に向かうのだった。