日が沈み空が暗がりを見せたころ、暦さんの家に到着する。

「うわー、広い屋敷」

 初めてこの屋敷を目にした薫希さんは、門前で感嘆の声を上げる。

「歩くん、すごいね。こんなお屋敷のお嬢様が彼女なんて、逆玉じゃん」

「ちょっ、姉ちゃん⁉」

 焦りを見せる龍也に家で勝手なことを言いふらしていることに勘付く。

「付き合っていませんし。片思いですよ」

「えっ?」

「僕と暦さんのことを脚色して話したな」

「そうなの」

「えっと…」

 龍也は睨み付けるお姉さんの視線から逃げ、目を泳がせる。

「姉を騙そうなんて、良い度胸してるじゃない」

 首を絞められた龍也は「姉ちゃん…ごめんなさい…」と苦し気に懺悔する。

 薫希さんがいるときは、行った悪事やいたずらを言い付けることが龍也にとって1番のお灸だな。

「どうされましたか?」

 騒ぎを聞き付け、大川さんがやって来た。

「大川さん。うるさかったのなら、すみません」

「いえ。本日はお嬢様のために、わざわざ準備していただきありがとうございます。ところで、こちらのお嬢さんは?」

 大川さんは視線を薫希さん向ける。

 いつの間にか薫希さんが居住まいを正していた。

「はじめまして。神崎 龍也の姉、神崎 薫希と言います。弟がいつもお世話になっています」

 挨拶も完璧で、とてもさっきまで騒いでいたとは思えない。流石、もう直ぐ就職を控えた大学生だ。切り替えが早い。

「では、皆様。準備を始めますのでどうぞ中へ」