8月30日、龍也の宿題は終わった。

「ヤッフー!夏休みの宿題がに終わった!」

「良かったね。最終日前日に終わったのなんて初めてだから」

「うん。本当に歩と暦ちゃんのお陰だよありがとう」

 龍也は素直にお礼を述べると、「今度は歩の番だぞ」と囁いた。

 明日までに告白しろと急かしているのだろう。下卑たる表情にうんざりする。

 ふと、暦さんに顔を向けると微笑み返された。

 雅史さんの話しを聞いて以来、彼女が表に出す表情は全て悲しみを隠すための道具のように思えて、目も合わせられないでいた。

 龍也だけに聞こえるように「やっぱり、告白したって彼女の迷惑になるだけだ」と言う。今は告白しないたてまえ立て前ではない。

 すると龍也は「じゃあいいぞ。俺から歩の本心、言っちゃうから」とヘソを曲げる。

 僕から告白しなくても、龍也が言ってしまえば結局彼女の迷惑になる。

 今は彼女のケアを優先すべきだ。

 僕は龍也を説得する方法を考える。

「今年の夏。今までで1番楽しかった気がする」

 図らずも暦さんが発した言葉に「うん。すげー、楽しかった」と同意する龍也。

「だけど、お金がなかったから海と勉強会以外はただただ無に過ごしていたなー。花火くらいしたかったなー」

「花火?やったことないな」

「「花火やったことないの?」」

 暦さんの予想外の発言に僕も龍也もオウム返しでは尋ねてしまった。

「うん。多分。子どものころはそういうことやらせてもらえる時間がなかったから」

 「花火大会とはで見たことはないのか?」と龍也が聞き返す。

「危ないから行っちゃダメって。みんなが」

 改めて彼女がお嬢様という立場に窮屈な思いを強いられている事実を思い知らされる。

 僕は今こそ彼女に何かしてやれないかと考える。