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「今では、娘が何を考えているのかもわからないよ。暦も昔の私と今の私があまりにも違うからか、顔を合わせても私だと認識できないことがある」

 僕は暦さんが雅史さんに顔を合わせたとき、雅史さんのことも誰だかわからなかったことを思い出した。

「段々と老けてきたこともあって、2年前くらいからは父だと言わなければ完全に思い出せなくなってしまった。全く、自業自得だよ」

 哀愁の込もった笑みは娘に父親として見られることを諦めているようだった。

「私が愁傷できる立場ではない。暦が記憶喪失自体をどう思っているのかはわからないが、当然母親を失ったんだ。辛いに決まっている。思い出そうするたびに、傷を蒸し返しているよ」

 かける言葉も見つからなくて窮する。

 そんな僕を察して「すまないね。無関係の君にこんな話しをして」と謝ってきた。

「だけどね、暦は君に心を開いている。そんな気がするんだよ」

 突如、雅史さんは頭を下げる。

 僕は驚いて顔を上げてほしいと頼むが、そのまま「身勝手だが、これからも娘のことを見てくれないか」と頼み込む。

 選択肢は1つしかない。僕自身も彼女の力になりたいと願っているから。

「言われなくても。そのつもりです」